HEC-RAS 2D Practical Manual

HEC-RAS 2次元解析マニュアル

HEC-RASの2D Flow Areaを用いた氾濫解析、雨量流出を含む面解析、1D河道と2D氾濫原を結合する解析を、実務手順として整理した図入りマニュアルです。

HEC-RAS 2D解析ワークフローの図

Contents

目次

最初は全体像を確認し、次にTerrain、2Dメッシュ、境界条件、計算、結果確認の順で読み進めてください。

Overview

1. 2D解析の全体像

HEC-RAS 2D解析では、地形面上に2D計算領域と計算メッシュを作り、水深・流速・水面標高を時間変化として計算します。

HEC-RAS 2D解析の基本構成

2D解析では、まずRAS MapperでTerrainを作成し、Geometryで2D Flow Areaを設定します。次にセルサイズ、breakline、粗度係数、境界条件を与え、Unsteady FlowのPlanとして計算します。

河川・氾濫原・都市域をすべて2Dで扱う方法もありますが、実務では「河道は1D、氾濫原は2D」とする1D/2D結合もよく使われます。

2D解析ワークフロー
図1 Terrain作成からGIS成果出力までの基本フロー。

Use cases

2. 2D解析が向いている業務

浸水が面的に広がる、流向が単純な河道方向だけでは表せない、道路・盛土・堤防の影響が大きい場合に有効です。

洪水氾濫

外水氾濫・破堤氾濫

越流・破堤後の浸水拡大、浸水深、流速、到達時間を面的に確認します。

内水

内水・雨水氾濫

面降雨、地表流、ポンプ場・排水路の影響を簡易的に検討する入口として使えます。

都市域

道路・盛土の影響

道路盛土、鉄道、堤防、用排水路などの地形線が流れを制御する地域に向いています。

施設検討

築堤・道路計画の比較

対策前後の浸水範囲、流速、流向、到達時間の変化を比較できます。

避難

到達時間・危険流速

避難判断や説明資料では、最大浸水深だけでなく到達時間・流速も重要です。

GIS成果

ハザード図素材

最大浸水深、浸水範囲、流速、WSEをGeoTIFF等に出力し、QGIS/ArcGISで図化します。

Input data

3. 入力データの準備

2D解析の品質は、計算エンジンよりも地形・境界条件・粗度・メッシュ設計で大きく変わります。

分類データ例実務での確認ポイント
座標系平面直角座標系、UTMなどの投影座標系緯度経度のままでは距離・面積・セルサイズの扱いが不適切になりやすいため、必ず投影座標系を設定します。
TerrainDEM、LP、DSM/DTM、河道掘込、堤防天端、道路盛土河道・堤防・道路・水路がDEMに表現されているかを確認します。必要に応じて地形補正を行います。
2D領域2D Flow Area外周、計算対象範囲境界が高台・分水界・十分遠方にあるか、水が外周で不自然に止まらないか確認します。
粗度土地利用、河道、道路、市街地、森林、水域Manning nを土地利用ごとに整理します。河道・市街地・農地・森林は分けると説明しやすくなります。
境界条件流量ハイドログラフ、水位ハイドログラフ、Normal Depth、雨量、横流入単位、時刻、タイムゾーン、DSSパス、ピーク流量、総流量を確認します。
検証データ観測水位、痕跡水位、浸水実績、CCTV、聞き取り、衛星画像水位だけでなく、浸水範囲やピーク時刻も検証材料になります。

Terrain

4. Terrainと地形補正

2D解析では、セル内の地形情報から流積・貯留・セル面標高が決まるため、Terrainの品質が非常に重要です。

Terrainと土地利用粗度の準備
図2 Terrain、土地利用、RAS Mapperでの確認イメージ。

Terrainで必ず確認すること

  • DEMの単位がmであること
  • 投影座標系が設定されていること
  • 河道内の標高が実際より高く埋まっていないこと
  • 堤防天端・道路盛土が十分に表現されていること
  • 橋梁部・樋門・暗渠部で地形が不自然に閉塞していないこと
  • 境界外周付近で急な崖やNoDataが混入していないこと
1m DEMを使う場合の考え方

地形データが1mでも、計算セルまで1mにすると計算時間が非常に長くなります。実務では、重要な地形線はbreaklineで保持し、氾濫原のセルサイズは5m、10m、20mなど目的と計算負荷に応じて決めます。

2D Flow Area

5. 2D Flow Areaとメッシュ

2D Flow Areaは、HEC-RASの2D計算領域です。外周ポリゴンを作り、その内部に計算メッシュを生成します。

外周ポリゴンの決め方

対象氾濫範囲より少し広めに設定し、境界が浸水拡大の途中で切れないようにします。山地や高台、河川境界、海岸、排水先など、水理的に説明できる位置を選びます。

セルサイズの決め方

氾濫原の広域検討では10〜50m程度、都市域・越流部・水路周辺では数m〜10m程度など、目的に応じて変えます。全域を細かくするのではなく、Refinement Regionやbreaklineで局所的に細かくするのが実務的です。

セル形状の確認

極端に細長いセル、急激にサイズが変わるセル、地形変化をまたぐ大きすぎるセルは、不安定や不自然な流れの原因になります。

段階的に作る

最初から全域・高精度モデルを作るのではなく、粗いメッシュで流れの方向と境界条件を確認し、その後に重要箇所を細分化します。

Breaklines

6. Breakline設計

Breaklineは、堤防・道路・水路・河岸などの重要な地形線にメッシュを合わせるための設定です。

2Dメッシュとbreaklineの模式図
図3 河道、堤防・道路、水路にbreaklineを設定するイメージ。

Breaklineを入れる候補

  • 堤防天端、堤内地側・堤外地側の法肩
  • 道路盛土、鉄道盛土、河川管理用道路
  • 河道、支川、用排水路、旧河道
  • 越流しやすい低い箇所、破堤想定地点
  • 高低差が急に変わる地形境界
  • 市街地で流向を制御する幹線道路

Breaklineは多ければよいわけではありません。重要地形を説明できる量に抑え、計算安定性を確認します。

Manning n

7. 粗度係数と土地利用

2D解析では、地表面の抵抗をManning粗度係数として設定します。土地利用別に整理すると、説明性が高くなります。

区分設定時の注意
水域・河道河川、水路、湖沼河道内の粗度は横断面・植生・河床材料と整合させます。
道路・舗装幹線道路、駐車場、舗装面粗度は低めになりやすい一方、道路盛土は地形障害として別に表現します。
市街地住宅地、商業地、工業地建物を粗度として表すか、建物ポリゴンを地形・非流下域として扱うかを検討します。
農地水田、畑地季節や湛水状態によって抵抗が変わるため、解析目的に合わせます。
森林・草地山林、河畔林、草地流速が過大にならないよう、現地状況や既往検討値と比較します。

Boundary conditions

8. 境界条件

2D解析の境界条件は、流量・水位・雨量・横流入・内部接続に分けて整理します。

2D解析境界条件の模式図
図4 上流流量、下流水位、雨量、横流入、1D/2D接続の概念。

境界条件の種類

  • Flow Hydrograph:上流端や横流入に流量時系列を与える。
  • Stage Hydrograph:下流端や海域・湖沼に水位時系列を与える。
  • Normal Depth:下流勾配を用いて簡易的に流出させる。
  • Rating Curve:水位流量関係を与える。
  • Precipitation:2D領域に直接雨量を与える。
  • SA/2D Connection:河道・貯留域・2D領域を内部的に接続する。

Rainfall / Infiltration

9. 雨量・浸透・流出

HEC-RAS 2Dでは、2D領域へ直接雨量を与える検討も可能です。ただし、流域流出を本格的に扱う場合はHEC-HMSとの連携が基本です。

直接雨量

2D領域へ面雨量を与える

小流域や内水的な検討では、2D領域に雨量を与えて地表流を確認できます。排水路・ポンプ・下水道を詳細に扱う場合は、別モデルや管路設定との整合が必要です。

HMS連携

流域流出はHEC-HMSで作る

広い流域から河川へ入る流量ハイドログラフは、HEC-HMSで作成し、DSSを介してHEC-RASの上流・横流入境界へ渡す構成が分かりやすいです。

1D / 2D coupling

10. 1D/2D結合

河道は1D、氾濫原は2Dとすることで、計算効率と面的な浸水表現を両立できます。

1D/2D結合の使いどころ

河道断面が整理されている場合、河道内は1Dで安定的に流下させ、堤防越流・破堤・横越流によって2D氾濫原へ水を出す構成が実務的です。

  • 既存の1D河川モデルを活用したい
  • 河道内水位は断面ベースで説明したい
  • 氾濫原の流向・浸水範囲は面的に見たい
  • 堤防越流・破堤地点を明示したい
1D河道と2D氾濫原の結合
図5 1D River Reachと2D Flow AreaをSA/2D Connectionで接続するイメージ。

Structures

11. 堤防・道路・構造物

2D解析では、堤防・道路盛土・樋門・橋梁・カルバートをどのように表すかが重要です。

堤防

Terrainに天端が十分表現されていない場合、breaklineや地形補正、SA/2D Connectionで越流高を整理します。

道路盛土・鉄道

単なる粗度ではなく、地形障害として扱うべき場合があります。道路天端・開口部を確認します。

橋梁・カルバート

流れを大きく制御する場合は、1D構造物または接続構造として扱うか、地形モデルで表現するかを検討します。

樋門・水門

開閉条件、逆流、排水先水位を整理します。単純な地形だけでは実運用を表せないことがあります。

ポンプ

内水検討ではポンプ能力、運転開始水位、停止条件、排水先水位を整理します。

建物

都市域では、建物を粗度として表現するか、非流下域・地形高として表現するかを目的に応じて選びます。

Plan

12. Planと計算条件

計算条件は、後から再現できるように表で残します。特に時間刻みと出力間隔は重要です。

項目設定内容確認ポイント
Simulation Time Window開始時刻、終了時刻雨量・流量・水位時系列と一致しているか。
Computation Interval計算時間刻みセルサイズ・流速に対して大きすぎないか。ログで安定性を確認。
Hydrograph Output Interval時系列出力間隔観測水位やDSS出力と比較しやすい間隔にします。
Mapping Output Interval地図出力間隔到達時間やピーク時刻を見逃さない間隔にします。
Equation SetFull Momentum / Diffusion Waveなど氾濫流の慣性・局所流況をどこまで見るかで選択します。
Initial Condition初期水位、Warm-up、Restart初期段階の不自然な水位振動を避けます。

Stability

13. 安定性とトラブル対応

2D解析で計算が発散する場合は、境界条件、地形、メッシュ、時間刻みを順に疑います。

セルサイズと時間刻みの関係
図6 セルサイズ・流速・計算時間刻みの関係。

よくある不安定要因

  • 急激に立ち上がる流量ハイドログラフ
  • 下流境界水位が不自然、または境界が近すぎる
  • 極端に小さいセル・細長いセルがある
  • 堤防・道路・水路の地形が壊れている
  • 時間刻みが大きすぎる
  • 初期条件が実際の水位とかけ離れている
  • 局所的なNoDataや異常標高がある

対策1:まず粗いモデルで動かす

最初から細かく作ると原因が見えにくくなります。粗いメッシュで境界条件と全体流向を確認します。

対策2:時間刻みを小さくする

局所的に流速が大きい場合やセルが細かい場合、Computation Intervalを小さくします。

対策3:地形を点検する

異常な深掘れ、盛り上がり、NoData境界、橋梁部の閉塞を確認します。

対策4:境界を遠ざける

水理的に影響が大きい位置に境界を置くと不自然になります。十分下流・上流に設定します。

Outputs

14. 結果確認・成果出力

結果はRAS Mapperで確認し、必要に応じてGeoTIFFやDSS、CSV、画像として整理します。

確認する主な結果

  • 最大浸水深
  • 最大流速
  • 水面標高
  • 到達時間
  • 浸水継続時間
  • 流向・ベクトル
  • 時系列水位・流量
  • 計算ログ・質量収支
計算と成果出力の模式図
図7 計算実行、品質確認、RAS Mapper/GIS成果出力。

Calibration

15. 較正・検証

計算結果は、観測水位・痕跡水位・浸水実績・流量観測と比較して妥当性を確認します。

水位較正

観測所水位、痕跡水位、水位縦断を比較し、粗度、境界条件、河道形状を点検します。

浸水範囲検証

浸水実績図、衛星画像、聞き取り、被災写真、道路冠水記録と比較します。

ピーク時刻

ピーク水位・浸水到達時刻が観測や実績と大きくずれていないか確認します。

感度分析

粗度、境界条件、破堤幅、メッシュサイズ、時間刻みを変え、結果の変化を把握します。

説明可能性

なぜその粗度・メッシュ・breaklineにしたか、報告書で説明できるようにします。

再現性

使用バージョン、入力データ、計算条件、出力日時、座標系を記録します。

Deliverables

16. 報告書・成果品整理

解析結果そのものだけでなく、条件表、確認図、使用データ、バージョン情報をセットで残します。

成果品内容備考
解析条件表バージョン、地形、粗度、境界条件、セルサイズ、時間刻み、出力間隔後から再計算できる情報を残します。
モデル構成図2D Flow Area、境界条件、breakline、1D/2D接続GIS図またはRAS Mapper画面を整理します。
結果図最大浸水深、最大流速、到達時間、水面標高QGIS/ArcGISで凡例・図郭・注記を整えます。
時系列図主要地点の水位・流量・流速観測値がある場合は重ねて表示します。
GISデータGeoTIFF、Shapefile、GeoPackage、CSV座標系、単位、NoData、凡例区分を明記します。
検証資料痕跡水位、浸水実績、観測水位、差分図計算結果の妥当性説明に使います。
最初の実務ステップ

初回モデルでは、対象範囲を狭くし、単純な上流流量・下流境界で水が流れることを確認してください。その後、breakline、粗度、雨量、1D/2D結合、構造物を段階的に追加すると、トラブル原因を追いやすくなります。

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