HEC-HMS Simple Manual

HEC-HMS 簡易マニュアル

HEC-HMSで、降雨から流出ハイドログラフを作成するための基本手順を整理します。初めてのイベント洪水モデルを対象に、Basin Model、Meteorologic Model、Control Specifications、計算、較正、HEC-RAS連携までを確認します。

HEC-HMS簡易マニュアルの作業フロー
このページの位置づけ

このページは、HEC-HMS公式マニュアルを日本語の実務導入手順として整理した補助資料です。業務で使用する場合は、使用ソフトのバージョン、参照マニュアル名、参照日、主要パラメータ、較正結果を必ず記録してください。

Contents

マニュアル構成

イベント洪水解析を想定し、入力データ準備からRAS連携までを順番に確認します。

1. Scope

HEC-HMSでできること・向いていること

HMSは、水文モデルとして降雨・融雪・蒸発散・浸透・流出変換・河道追跡を組み合わせ、流域出口や支川の流量ハイドログラフを作成するソフトです。

イベント解析

単一洪水のピーク流量を再現

設計降雨や既往洪水を対象に、ピーク流量、ピーク時刻、総流出量を確認します。まずはこの使い方から始めると理解しやすいです。

連続解析

長期間の流量変化を扱う

蒸発散、土壌水分、基底流量を含めて、長期の雨量流量関係を再現します。水資源、低水、予測モデルの検討に使います。

グリッド解析

空間分布する雨量・地形を扱う

グリッド降雨や分布型の地形・土地利用を用いる場合は、ModClarkなどを検討します。広域の雨量分布を反映しやすくなります。

RAS連携

水理解析の境界条件を作る

HMSで作成した流量ハイドログラフは、HEC-DSSを経由してHEC-RASの上流境界条件、支川流入、横流入条件として使えます。

HEC-HMSモデル構成図
図1 HEC-HMSモデル構成。Basin Model、Meteorologic Model、Control Specifications、Time-Series Dataを組み合わせてSimulation Runを作成します。

2. Data preparation

入力データの準備

HMSの計算精度は、流域分割、雨量、パラメータ初期値、観測流量の整理に大きく左右されます。

分類必要データ確認ポイント成果物例
流域流域界、サブ流域、河道、合流点、流域出口流域面積、流路長、平均勾配、合流関係を確認します。流域図、サブ流域一覧
地形・土地利用DEM、土地利用、土壌、河道形状Curve Number、到達時間、河道追跡係数の根拠になります。CN設定表、地形量表
雨量雨量時系列、降雨分布、設計降雨時間間隔、累加/時間雨量、欠測、タイムゾーン、観測所重みを確認します。雨量CSV、DSS
流量・水位観測流量、観測水位、H-Q式較正・検証に使う地点名、基準時刻、ピーク流量、観測品質を整理します。検証地点表
初期条件初期損失、初期流量、基底流量、土壌水分イベント開始前の降雨状況や平水流量を確認します。初期条件メモ
連携条件DSSパス名、RAS境界地点、時間間隔HMS結果をどの地点のRAS境界に接続するかを決めます。DSS対応表

3. Project

Project作成と基本設定

最初に作業フォルダ、単位、プロジェクト名、データ管理方法を決めます。

  1. Projectを作成
    業務名、流域名、対象洪水、作成年月が分かる名称にします。フォルダ内に入力、結果、図、報告用CSVを分けて管理すると後で追跡しやすくなります。
  2. 単位系を確認
    SI単位を基本に、面積、流量、雨量、時間の単位を統一します。外部CSVやDSSと単位が混在しないようにします。
  3. Time-Series Dataを登録
    雨量、観測流量、境界流量、水位などを登録します。時刻形式、時間間隔、欠測値の扱いを確認します。
  4. モデルファイル名を整理
    Basin、Meteorologic、Control、Runの名称にケース番号を入れておくと、較正前後や降雨ケース別に比較しやすくなります。

最初のモデルは単純に作る

初回から複雑な分布型モデルにせず、サブ流域数を抑えたイベントモデルで、水収支とピーク流量が概ね妥当かを確認するのがおすすめです。

単純モデルでモデル構造と観測値の関係を理解してから、サブ流域分割やグリッド雨量を追加すると、原因切り分けが容易です。

4. Basin Model

Basin Modelの作成

Basin Modelでは、サブ流域と河道ネットワークを作成し、それぞれに水文計算手法とパラメータを設定します。

Subbasin

流域から流出を作る要素

面積、Loss、Transform、Baseflowを設定します。地形・土地利用が大きく変わる場合は分割を検討します。

Reach

河道内の洪水波を追跡

Lag、Muskingum、Kinematic Waveなどで、流量ハイドログラフの遅れ・減衰を表現します。

Junction

合流点で流量を合成

複数のサブ流域・Reachの流量を合成します。実河川の合流順序とモデルの接続方向を確認します。

Sink

流域出口

最終的な流出ハイドログラフを確認する地点です。RAS上流端や検証流量観測所と対応させます。

Reservoir

貯留施設

ダム、遊水地、調整池がある場合に設定します。容量曲線、放流ルール、越流条件を整理します。

Diversion

分派・取水

分水、取水、放水路などがある場合に設定します。ルールと時系列の扱いを記録します。

5. Meteorologic Model

Meteorologic Modelの作成

気象モデルでは、サブ流域にどの雨量を与えるかを定義します。イベント解析では降雨の時間間隔と空間代表性が重要です。

Point Gageを使う場合

雨量観測所が1点または少数の場合、代表観測所や重み付け平均を使います。サブ流域ごとに適用雨量を変える場合は、観測所とサブ流域の対応を表に残します。

設計降雨を使う場合

中央集中型、前方集中型、後方集中型などの降雨波形を整理し、時間雨量として入力します。降雨継続時間と計算期間の整合を確認します。

面雨量を使う場合

Thiessen、多角形平均、距離重み、グリッド雨量などを使い、流域平均雨量を作ります。観測所密度が低い場合は不確実性を記録します。

連続解析の場合

降雨だけでなく、蒸発散、温度、融雪、土壌水分などが必要になる場合があります。データ欠測補完と時系列の長さを確認します。

6. Methods

Loss・Transform・Routingの選び方

HMSでは複数の水文モデルを選べます。ここでは初期検討で使いやすい代表的な方法を整理します。

分類代表モデル主なパラメータ実務での使い方
LossSCS Curve NumberCN、初期抽象、Impervious率土地利用・土壌から初期値を設定しやすく、イベント解析の導入に向いています。
LossInitial and Constant初期損失、一定損失率観測流量に合わせて簡便に損失を調整したい場合に扱いやすいです。
LossGreen-Ampt吸引水頭、透水係数、初期含水率土壌物理量を反映したい場合に使います。入力値の根拠が必要です。
TransformSCS Unit HydrographLag Time、到達時間設計洪水や初期検討に使いやすい単位図法です。
TransformClark Unit HydrographTime of Concentration、Storage Coefficient到達時間と貯留効果を分けて調整でき、較正対象にしやすいです。
TransformModClarkグリッド、到達時間、貯留係数空間分布雨量や地形分布を使う場合に検討します。
RoutingLag / MuskingumLag、K、X河道内の遅れと減衰を簡便に表現できます。係数の妥当性を確認します。
RoutingKinematic Wave河道長、勾配、粗度、断面形状河道形状を反映したい場合に使います。水理条件の設定が重要です。

7. Compute

Control SpecificationsとSimulation Run

計算期間・時間刻み・出力間隔を決め、Basin Model、Meteorologic Model、Control Specificationsを組み合わせてRunを作成します。

Control

開始・終了時刻を決める

降雨開始前から計算を始め、ピーク後の減水部まで含めます。DSSや観測流量との時刻ずれがないか確認します。

Time step

計算時間刻みを決める

短時間集中豪雨や小流域では、1時間刻みでは粗すぎることがあります。雨量間隔、流域応答時間、ピーク再現性を見て調整します。

Run

Simulation Runを作成

Basin、Meteorologic、Controlを組み合わせてRunを作成します。比較用に、降雨ケース・パラメータケースごとにRun名を分けます。

Check

計算ログと水収支を確認

エラーや警告だけでなく、降雨量、有効雨量、損失、直接流出量、基底流量、総流出量のバランスを確認します。

8. Calibration

較正・検証の考え方

観測流量がある場合は、ピークだけでなく、総流出量、ピーク時刻、波形全体を見て調整します。

HEC-HMS較正と結果確認
図2 較正・検証の確認観点。ピーク流量、ピーク時刻、総流出量、ハイドログラフ形状を分けて確認します。

ピーク流量が大きすぎる・小さすぎる

Lossパラメータ、CN、Impervious率、有効雨量、サブ流域面積、雨量の代表性を確認します。

ピーク時刻が早い・遅い

Lag Time、Time of Concentration、Clark貯留係数、Reach RoutingのLagやKを確認します。

総流出量が合わない

損失モデル、初期損失、基底流量、降雨量、流域面積を確認します。雨量データの累加/時間値の取り違えにも注意します。

複数洪水で確認する

1洪水だけに合わせると過較正になりやすいです。可能であれば複数イベントで同じパラメータが使えるかを確認します。

9. HEC-RAS

HEC-RASへの連携

HMSで作成した流出ハイドログラフは、HEC-DSSへ出力し、RASの上流流量境界や横流入として利用できます。

DSS

出力パス名を整理

Location、Parameter、Intervalなどが分かるDSS pathnameにし、RAS側で取り違えないように対応表を作ります。

Boundary

RAS境界地点と対応

HMSのSinkやJunctionが、RASの上流端、支川流入、Lateral Inflowのどこに接続されるかを図で整理します。

Time step

時間間隔を合わせる

HMS出力とRAS計算時間刻み・境界条件間隔の整合を確認します。ピーク付近が粗くならないようにします。

Report

成果表に残す

DSSファイル名、pathname、HMS Run名、RAS Plan名、接続地点、流量ピークを一覧表に残します。

HEC-HMSとHEC-RASの連携図
図3 HMS→DSS→RASの連携。HMSの流量ハイドログラフを、水理解析側の境界条件として利用します。

10. Troubleshooting

よくあるエラー・警告と対処

計算が通らない場合や結果が不自然な場合は、データ、モデル構造、時間設定、単位を順番に確認します。

雨量が反映されない

Meteorologic ModelとSubbasinの対応、雨量時系列の期間、単位、欠測値、Controlの開始終了時刻を確認します。

ピーク流量が極端に大きい

雨量が累加値なのに時間雨量として読まれていないか、流域面積の単位、CNやImpervious率を確認します。

ピーク時刻が不自然

流域到達時間、Lag Time、Routing係数、雨量ピーク時刻、タイムゾーン、データ時刻の丸めを確認します。

水収支が合わない

Loss、Baseflow、初期条件、降雨欠測、計算期間の不足を確認します。イベント終了時刻が早すぎると減水部が切れます。

RASでDSSを読めない

DSSファイルの場所、pathname、単位、時間間隔、HEC-DSSVueでの表示可否を確認します。

較正しても合わない

パラメータだけでなく、雨量代表性、流域分割、観測流量のH-Q式、河道貯留、ダム・取水の影響を確認します。

11. Official references

公式資料で確認するページ

このページは日本語の補助資料です。最終的な仕様や詳細操作はHEC公式資料で確認してください。

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